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イワテバイクライフ 2009年 10月後半


2009年10月31日(土)
朝には雲ひとつ無い青空があったはずだが、みるみる薄雲のベールがかかり、曖昧な陽射し。 @岩手山麓


  こんなことでいいのか、と
  わたしは思う。
  来る日も来る日も
  この繰り返しでよいのか、と
  そう思う瞬間(とき)がある。

  するとね、風がね、
  急に静かになって、ささやくのだ。

  「こんなことではなくて、
  どんなことなら安心できるの?」

  「日々のあれこれに流されず、
  繰り返すことは、退屈なことなの?」

  「昨日を越えたくて、明日を新しくしたくて、
  走り続けることは、無意味なことなの?」

  「答えの見えない道の途中で、
  信じ続ける強さを知ったあなたは、
  もういないの?」

  「安楽な暮らしに手を伸ばし始めると、
  人は流した涙や汗に冷たくなるの?」

  カーブの向こうから
  どっと秋が現れ、わたしを貫いた。
スポーツスター883R

2009年10月30日(金)
大気に水滴が舞い、小雨断続。しかも雷鳴が轟きながら、青空は現れ薄日も射した。 @岩手山麓


  たっぷり薪を用意すると、
  密かに厳冬の夜を夢見る。

  しっかり守りを固めると、
  密かに大嵐を待ち侘びる。

  きちんと作戦を立てると、
  密かに敵役を探し始める。

  がっちり兵糧を蓄えると、
  密かに孤立を招きたがる。

  どっさり希望をつかむと、
  密かに悲劇を思ってみる。

  まっすぐ道が見え出すと、
  密かに紆余曲折を求める。


  そのように、ある日突然
  おそろしい物語が始まる。
KTM250EXC-F

2009年10月29日(木)
霧は払われたが、青空は霞んでいて、なまぬるく、どこか春のような。 @岩手山麓


  オートバイに乗り続けなくても
  人は暮らしていける。

  (勿論さ。でもね)

  生きるためにオートバイに乗る者は、
  きっといる。

  心を確かめたくて風に飛び込む者は、
  きっといる。

  走った距離と時間で闇を埋める者は、
  きっといる。

  ひとり自分の答えを抱きしめるしかないから、
  轟々たる晩秋に染まる者は、
  きっといる。
HONDA Ape100

2009年10月28日(水)
ゆっくり、実にゆっくり冬へ降下していく秋は、季節が止まったかと思うほどの睡魔をもたらす。 @岩手山麓


  その日、
  秋の姿は、今日のままですか?
  此処に帰り立つ私は、
  にっこり笑っていられますか?
  許せない者どもの影は、もはや霧散し、
  穏やかな夕暮れですか?


  その日、
  秋の色は、今日のままですか?
  此処に一人立つ私は、
  心を朱に染めていられますか?
  共に闘った者の記憶は、けして眠らず、
  燃える様な夕暮れですか?


  その日、
  ここに秋は、あるのでしょうか?
  長い旅路に出る私は、
  惜別の涙を流せるのでしょうか?
  この地を求めた理由は、ついに語らず、
  ただ静かな夕暮れですか?
スポーツスター883R

2009年10月27日(火)
台風20号は、三陸沖をざわめかせ、遠ざかった。午後には急速に青空が戻った。 @盛岡市


  違うんだな。
  わたしが綴っているのはね、
  少し違うんだよ。

  君の企画書のように
  もっともらしい未来のことなど、
  一行も書いてはいないのさ。
  (待ち受ける闇を明らかにしているだけさ)

  君の報告書のように
  すべてうまくいったなんて嘘は、
  一行も記してはいないのさ。
  (葬られていった魂を記録しているだけさ)

  君の誓約書のように
  宝の在処をすべて明かすなんて、
  一行も謳ってはいないのさ。
  (地獄の日々に咲く花を写しているだけさ)
KTM250EXCーF

2009年10月26日(月)
朝から小雨。止みそうで止むことのない雨。冷たくけむる秋の雨。晩秋の色を滲ませる雨。 @盛岡市


  答えのわかっている問題に向き合うこともある。
  (そうさ、眉間に皺を刻んでみせるのさ)
  正解への道筋が明かされ、
  どよめき揺れる群を離れる日まで、
  考え続ける私でいる。


  結果の見えている大博打に出ることだってある。
  (そうさ、手に汗を握り挑んでみせるのさ)
  大当たりの波が押し寄せ、
  歓喜と悲鳴の群を見捨てる日まで、
  賭け続ける私でいる。


  行く末が見えてしまう場所に生きることもある。
  (そうさ、懸命に未来を探ってみせるのさ)
  時代の必然に飲み込まれて、
  嘆息と諦観の群に決別する日まで、
  演じ続ける私でいる。
HONDA Monkey

2009年10月25日(日)
行楽の記念写真にうってつけの青空。けれど、心躍る雲は無く、秋の陰影は薄った。 @岩手山麓


  明日を知りたくて、灯を求める。
  一刻も早く知りたくて、
  ついに大切なものに火を放つ。

  夢を燃やす。
  塒を燃やす。
  志を燃やす。
  道を燃やす。
  今日という日を炎に包む。
  嘘という薪まで投げ込んで燃やす。
  風さえ炭化するまで燃やす。

  (結局、明日など幻だったことがわかる)

  すべてを知り、秋の道端に佇んでいたのは、
  黒こげの私か、歳月の影か。
スポーツスター883R

2009年10月24日(土)
思いのほかに濡れて夜は明けた。日中は晴れてはいたが、雲も自由気ままに空の主役だった。 @姫神山麓


  右から左へ、
  あるいは左から右へ。
  東から西へ、
  あるいは北から南へ。
  動き続けることで成り立つことがある。
  特段の意味も無いその運動は、
  誰かの思惑や義務がからんで加速する。
  今日も誰かが
  右から左へ、
  あるいは左から右へ流れていく。
  明日も何かが、
  東から西へ、
  あるいは北から南へ場所を移す。

  そのような循環の輪でさえ
  動かせないものがある。
  (それはね、心さ)
  此処に居て、心は彼方にあり、
  彼方に居て、心は此処にある。
  中心線を持ってしまったものは、
  けして流されない。
  いつも静かに川の中で水を眺めている。
  永久に微笑み空の中で雲を見送っている。

HONDA Ape100 (撮影は土地の管理者の許可を得て行いました)

2009年10月23日(金)
盛岡で初霜。雲ひとつ無い空。秋の蒼さだけで覆われる一日も、どこか落ち着かない。 @葛巻町


  あなたがわたしにイライラしたところで、
  わたしはスキップする。
  この歩調は思い通りだから、
  ますます苛立たせてあげる。

  あなたがわたしをにがにがしく思っても、
  わたしは丘を渡り歩く。
  この道程は予定通りだから、
  ますます落胆させてあげる。

  あなたがわたしにあれこれ石を投げても、
  わたしは次の頂へ発つ。
  この秋空はとても高いから、
  ますます悪意の礫は届かない。

  そうなのさ、わたしはね、そうなのさ。
  図に乗ってズンズンと、
  新しい楽園へ驀進するのさ。
  遠ざかり転落するあなたを懐かしみ、
  空高く口笛を吹くのさ。
  風を抱き踊り狂うのさ。
KTM690ENDURO R

2009年10月22日(木)
晴れてはいた。爽やかだった。けれど秋晴れとは言いたくない。陰影の切れが足りないのだ。 @岩手山麓


  調子はずれの楽器が、
  最高の舞台に立ち、
  得意満面で名曲を奏でている。

  音は裏返り、
  あやしく震え、
  とうとう道を踏み外す。

  その様(ザマ)を静かに眺める。
  わたしの娯楽だ。ひそかな贅沢だ。
  勘違いの全力投球ほど、
  おもしろ可笑しいものは無い。
  (何より、ためになる)
  十数年楽しんでいるが、飽きない。

  すべては世間に晒されていると思うほどに、
  その眺めは、ありえない。
  刻一刻傾いていくものの哀れを想うほどに、
  その風景は、すさまじい。
  (金を払ってでも観ていたくなる)

スポーツスター883R

2009年10月21日(水)
なまぬるい朝だった。青空の中を巨大な雲が闇を従え荒々しく流れた後は、夕闇の土砂降り。 @葛巻町


  弓を使える者は戦へ出ていった。
  そうでない者達は村に残った。
  村では子供に弓を教えた。
  弓の名手は不在だから、
  戦を知らぬ大人が教えた。
  結局、的を射ぬけない群が村を守った。

  ある日、弓の使い手が村に帰ってみれば、
  故郷は、幾多の急襲を受け荒れ果てていた。
  そこに生き延びた大人が現れ、
  弓使いをののしった。
  「所詮お前は弓と戦しか知らぬ者だ」
  「お前は教育者にも指導者にもなれない」
  弓の使い手は居場所を失い戦に戻った。

  ある日、戦場に村の噂が流れた。
  弓を知らぬ指導者が、
  弓という弓をへし折り、焼き払ったという。
  弓のかわりに鉄砲を買いあさったという。
  鉄砲の構造を熟知しているという理由で、
  村を支配したという。
  こともあろうに、子供達に鉄砲を持たせ、
  隣村に戦を仕掛けたという。
  弾はことごとく的を外し、全滅したという。
  村の子供達は矢の雨の中に倒れたという。
スポーツスター883R

2009年10月20日(火)
時に暗い雲。風に水滴。時に青空。風も煌めく。なるほど秋の空だ。 @盛岡市


  旅先で嵐に遭う。
  橋が流され道が断たれる。
  進むことも引くことも出来ない。
  復旧に5年かかると告げられる。

  (是非もない)

  まずは、慌ただしく暮しを整えることだ。
  それで、瞬く間に1年が過ぎる。

  そして、仕事をかき集め汗をかくことだ。
  それで、瞬く間に2年が過ぎる。

  更には、友と酒を酌み交わし語ることだ。
  それで、瞬く間に3年が過ぎる。

  時には、分厚い小説を読みあさることだ。
  それで、瞬く間に4年が過ぎる。

  ついに、あと一年しかないことに気付く。
  その時、5年は過ぎたも同然だ。

  何事も無かったように旅を再開する。
  そんな時期もあったな、と
  橋を振り返り微笑む。
  (人生は、その繰り返しだよ)
HONDA Monkey

2009年10月19日(月)
朝方は薄日も射していたが、やがて不穏な雲が広がり、時折の雨。 @盛岡市(北上川河畔)


  君が走り続けるのはね、
  誰のためでもないのさ。
  もしかすると
  君にさえ理由がわからないことさ。

  (ただ、確かなことは)

  走っている時には、
  笑顔だったはずだ。
  善良だったはずだ。
  無垢だったはずだ。
  流れ来るものを美しいと思えたはずだ。
  流れ去ったもの達と和解出来たはずだ。
  道の先に明日の後ろ姿が見えたはずだ。
  人生の最先端に立つ瞬間だったはずだ。
  風を胸板に受けて言葉が溢れたはずだ。
  カーブの奥に真実を追いかけたはずだ。
  轟々たる空の下で静寂を聞いたはずだ。
  孤独の中で帰るべき所を悟ったはずだ。
  移ろう光の中に自分の影を見たはずだ。

  ただそれだけのことで、
  走り続ける理由は遂にわからない。
HONDA ベンリィ50S

2009年10月18日(日)
基本は曇天。薄日も射した。時折の雨もあった。気温も生ぬるかった。雷注意報とともに夜を迎えた。 @岩手山麓


  つらい話を切り出す時に、
  天気の話から始めなくていいんだよ。
  迷いなく結論を告げるんだよ。いいね。
  希望を持たせちゃ、可哀想だからね。

  覚悟した人間を斬る時に、
  身の上話なんかしなくていいんだよ。
  間髪入れず終わらせるんだよ。いいね。
  なごませた後じゃ、残酷過ぎるから。

  十字架を背負わせる時に、
  天国の話なんてしなくていいんだよ。
  罪の重さを静かに渡すんだよ。いいね。
  心軽くした後じゃ、担げないからね。


  待ち受けているものを
  はっきり示してあげるんだよ。
  (それが思いやりだよ)
HONDA Ape100

2009年10月17日(土)
雲も多く陽も陰りがちだったが、20度に届いていたようだから、まあ上々の秋晴れだったことにしよう。 @岩手山麓


  王様は、その絵描きの男が許せなかった。
  来る日も来る日も、
  男は、城のまわりの山や川に向き合い、
  絵筆を走らせた。
  降る日も照る日も、
  男は、城下の風や時の流れを受け止め、
  絵筆に吸い取った。

  王様は我慢ならなくなった。
  「あの者が描く絵のおかげで、
  城の備えはまる見えだ。実に危険だ」
  王様は、ついに絵描きの男を追放した。
  「これで描き続けられまい」そう確信した。

  絵描きが姿を消して間もなく、
  王様のもとへ見覚えのある絵が毎日届いた。
  どの絵にも城と周囲の風景が描かれていた。
  絵描きの男は、膨大なスケッチを残していたのだ。
  樹木の線や光の色や風の匂いまで
  心に描き溜めていたのだ。
  そこに暮らしてはいなくても、
  愛した場所のことならいくらでも描ける。
  (題材は無尽蔵だ)

  やがて異郷の地で男の絵は広く関心を呼んだ。
  その絵によって城と王の秘密は明らかになり、
  地平の彼方まで知れ渡った。
スポーツスター883R

2009年10月16日(金)
しっとり濡れて夜は明けた。日中は、うっすら青空もあった気がする。まずは穏やかな薄曇り。 @岩手山麓


  凍る季節がやって来る。
  幾度の冬を数えるのか、
  凍てつく夜が押寄せる。
  だから今日も森に入り、
  夢中で薪を拾い集める。
  今日という日の記憶を、
  狂った様にかき集める。
  来年の今日の為に。再来年の今日の為に。
  その次の年の今日の為に薪を拾い集める。

  (それは、つまり)
  未来の自分へ手渡す今日の思いだ。
  綴り続ける志を支える題材なのだ。

  未来の私よ思い出してくれるか。
  歳月の重さに潰されそうな私が、
  旅立つ決心をしたこの秋の事を。
  故郷を離れて暮らす日々の為に、
  精一杯の記憶を刻んだ秋の事を。
  風にまじる濡れ落ち葉の匂いや、
  少し霞んで連なる山並みの影を
  昨日の事の様に思い出してくれ。
  この秋の風景に魂を入れてくれ。
  再び此処に立つ日を思ってくれ。
  今日の記憶を燃やし耐えてくれ。

HONDA Ape100

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