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イワテバイクライフ 2009年12月前半
こんな彷徨に うつつをぬかしていたおかげで、 救われたのかもしれない。 滑稽な刃などを抜かずにすんだ。 汚れ果てた話を聞かずにすんだ。 軽々に明日を決断せずにすんだ。 形だけの反省などせずにすんだ。 浅薄な理想など掲げずにすんだ。 胡散臭い盟約を結ばずにすんだ。 泥仕合に巻き込まれずにすんだ。 こうしているだけで、すべては、 無心に流れ去り、無縁に遠ざかり、 正気だけが、ぽつんと立っていた。 |
酒場のカウンターで ひとり酒を飲み、 聞き耳を立てる君のことは、 とっくに気付いていたよ。 だからね、 いかにも君が欲しがっている話の時には、 熱弁をふるっておいてあげたよ。 ありきたりな打ち明け話を、 とっておきの調子でね。 君の背中を眺めながら、 結論へ向かうと見せて引き返し、 君の心を読みながら、 核心へ至ると見せて曖昧に、 結局、和気藹々のうちにお開きさ。 大丈夫。 君が探らなくても、その日は来る。 酔いも覚める不意打ち。 暁に踵を返す炎。 その時を思い、怯えるがいい。 |
あなた。 ねえ、あなた。 もう師走なのよ。 いろいろ大変なのよ。 片づけることは沢山あるのよ。 だから、じっと机に向かってばかりいないで、 さっさと要らないものを出して捨ててちょうだい。 本当にもう、 撮るだとか綴るだとか走るだとか、 そんなことばかりなのね。 家のことなんかどうでもいいのね。 自分のことにしか興味の無い人なのね。 そんなあなたを少しばかり受け入れる者だけに、 にっこりするのね。 さあ、あなた。 捨てるものは捨ててちょうだい。 この際、きっぱり片づけてちょうだい。 (少し静かにしてくれないか) その真っ最中なのだから。 |
温厚というより、 微笑むほかには手が無い人々が、 あれこれ手を出すから、 無残なことになるんだよ。 (ほら、試みも無く崩れていく) 寡黙というより、 自分自身を押し出せない人々が、 あれこれ耳を貸すから、 まとまらなくなるんだよ。 (ほら、議論も無く散っていく) 思慮というより、 大鉈を振るう習慣の無い人々が、 あれこれ取り組むから、 全体が歪んでくるんだよ。 (ほら、方針も無く流れていく) 嗚呼、その善良が、その不器用が、 どうしようも無さが愛おしくて、 歳月の板塀の前に突っ立ち、 一緒にずぶ濡れになっていたい。 ※本文と画像は一切関係ありません。 |
言い出せないさ。 すでに崩れだしているなんて、 誰も口に出せないさ。 言った途端、崩れ去ったら 暮していけないから、 今日という日を積み上げているのさ。 砂の歴史の上に黙々積み上げているのさ。 切り出せないさ。 もはや腐り果てているなんて、 誰も切り出せないさ。 言った途端、腐臭が漂えば、 息などできないから、 今日という日に蓋をしてしまうのさ。 汚れた川の中に黙々夢を流しているのさ。 触れられないさ。 とっくに終わっているなんて、 誰も触れたがらないさ。 触れた途端、墓場と化せば、 生きていけないから、 今日という日に意味を見付けるのさ。 莫大な債務の上に希望を押し立てるのさ。 ※本文と画像は一切関係ありません。 |
それを屈辱と言うのか? 誰かの思惑通りに踊らされることは、屈辱なのか? その舞台で嵐のような拍手喝采を奪えるのなら、 勝利と言うべきだろう。 (まずは、磨き鍛えよ) それを孤独と言うのか? 誰にも理解されず一人でいることは、孤独なのか? その静けさの中にわきあがる旋律を聞いたなら、 歓喜と言うべきだろう。 (まずは、耳を澄ませ) それを不毛と言うのか? 誰も心を向けない物語を綴ることは、不毛なのか? その万巻の中に一行でも愛をあらわせたのなら、 本望と言うべきだろう。 (まずは、思いを抱け) |
人はね、 誰かの思惑に踊らされているものだよ。 腹を立てちゃいけない。 誰かの思惑を越えて踊り続けるうちに、 本物になるんだよ。 毛嫌いしちゃいけない。 誰かの思惑を察して先回りするうちに、 自由になるんだよ。 頑なになっちゃいけない。 誰かの思惑に大らかに向き合ううちに、 優しくなるんだよ。 甘えていてはいけない。 誰かの思惑に乗って怠けているうちに、 捨てられるんだよ。 |
過ぎ行くものにすがりつき、 迎えるものから逃げ出して、 愛しい楽園に帰ってみれば、 友は老い、木々は枯れ果て、 閑散とした残酷に包まれる。 キラキラ舞ったブランコは、 錆び付いて悲しく軋むだけ。 見覚えのある顔はうつむき、 諦観と嘆息を漏らすばかり。 こんなはずではなかったと、 思い出を辿り彷徨うほどに、 帰る場所が無いことを知る。 (だからね) どれほど窮屈で薄汚くても、 棲家は今日の風の中にある。 どれほど遠回りであっても、 正解は今日の道の上にある。 どれほどいかがわしくても、 信じるべきは目の前に在る。 (そう思えるのなら) いつか記憶の懐に安住できる。 |
その地に愛着など無い者が、 その地の明日のことを決め、 明後日には、その地を離れ、 やがて、その地を忘れ去る。 そんな決定が街をのし歩く。 誰が決めた事か誰も知らず、 決定だけが生き延びていく。 お前の事など知らない者が、 お前の明日を酷くねじ曲げ 明後日には、この地を捨て、 すぐに、お前など忘れ去る。 そんな杜撰が繰り返される。 誰の仕業か誰も知らぬまま、 首をかしげ引き継いでいく。 (つまり、そんなものさ) その仕組を熟知したものが、 ある日議論の輪に乱入して、 地平線の彼方まで支配する。 |
ねえ、5年前のことを覚えているかい? 輝くばかりの日々だったね。 何もかも愛おしかったね。 ねえ、5年後のことを想像出来るかい? 陽は陰り風は冷えていくね。 何もかも懐かしくなるね。 ねえ、5年という歳月が見えるかい? 誰が何者になるとか、 街がどう変わるとか、 そんなことじゃなくて、 相変わらずの眺めに加えられる色彩が見えるかい? 5年という月日の筆を 僕はね、目を閉じ、思い描くのだ。 叶うことなら、 今、此処で、パレットを広げ、 冷えた雨水で5年の歳月をとかし、 絵筆に含ませ、 壁という壁を5年の歳月に染め上げ、 佇んでみたい。 |
匂わないか? また旅に出ることはともかく、 一年も前に下車駅が知らされるなんて、怪しいな。 つまるところ、 「そこに降り立つのが嫌なら、早く列車を降りろ」 ということじゃないのか。 この弛緩するほどの猶予期間は、 飛び降りた後の算段を ゆっくりさせようということじゃないのか。 明日への道筋を早々に明かして、 下車の決心をさせたがっているんじゃないのか。 (そうかい、面白い。ならばだ) 何くわぬ顔で南京豆など食っていようじゃないか。 窓外に流れる季節をスケッチしながら、 だらだらと旅を続け、乗り継ぎの時間を楽しみ、 いつの間にか始発駅に戻ってやろうじゃないか。 旅を終えた頃には、 人の目を見られない車掌は消え、 時刻表しか頭にない駅員も去った後だから、 俺は、晴れて故郷のプラットホームに立ち、 星空に歓喜を歌い上げようじゃないか。 |
この地に暮らしていきたければ、 もっと宝を出せ、と脅されると、 老人は「はいはい」とこたえて、 結局、何ひとつ提供しなかった。 (脅した者は、すぐに流された) この地で無事に終りたいのなら、 もっと手を貸せ、と迫られると、 老人は「はいはい」とこたえて、 結局、動く気配を見せなかった。 (迫った者は、やがて追われた) この地で輝く勲章が欲しければ、 もっと平伏せ、と強いられると、 老人は「はいはい」とこたえて、 結局、頭など下げはしなかった。 (強いた者は、ついに消された) 老人はいつも愛想良く返事した。 風が吹いても「はいはいはい」 雪が舞っても「はいはいはい」 矢が降っても「はいはいはい」 笑顔のからくり人形を仕掛けて、 老人は、既に墓の中で寝ていた。 |
丘は老残の兵で埋め尽くされた。 その見渡す限りを支配する塔は、傾いたまま、 変わらぬ調子で命令を出し続けた。 ひとりの男に次の戦地が告げられた。 男は、きょとんとして聞き返した。 「私の銃は射程距離が数メートルです。 それでいいんですね?本当にいいんですね?」 塔が「良い」と返事をすると 丘は、どっと笑い声に包まれた。 また別の男に次の戦地が告げられた。 男は、訝しげに聞き返した。 「私は体を失い前進できません。 それでいいんですね?本当にいいんですね?」 塔が「良い」と返事をすると、 丘は、苦々しい空気に包まれた。 更に別の男に次の戦地が告げられた。 男は、無表情に聞き返した。 「私は、魂を撃ち抜かれています。 それでいいんですね?本当にいいんですね?」 塔は、ひとつ間をおいて「良い」とこたえた。 丘は、静まり返った。 老残の群は、塔を囲み、縄をかけた。 掛声もろとも塔は引きづり倒された。 (それを合図に戦は終わった) |
歳月には色がある。 数年の筆は、 樹を繁らせ、相変わらずだ。 壁を剥がし、どこか寂しい。 心を裏返し、よそよそしい。 それでも此処を故郷とするなら、 氷雪の丘に立ち続けなくてはならない。 もう何があろうと動かない心を 胸にしまい走り回らなくてはならない。 例え束の間の旅に出たとしても、 此処に幽霊となって還らねばならない。 そのような数十年の果てに、 私の樹が故郷に色を添えるのなら、 私の壁が故郷にとけ微笑むのなら、 私の心が故郷に迎えられるのなら、 私は、灰となって春風に飛ばされて良い。 |
たった一年で顔ぶれはがらり変わる。 あとには変わらぬ山河の眺めだ。 (昨日血相を変えた者は、跡形もない) 二年も経てば空気などがらり変わる。 あとには変わらぬ季節の色彩だ。 (昨日ひれ伏した影が、堂々胸を張る) 三年も経てば風向さえがらり変わる。 あとには変わらぬ天地の広さだ。 (昨日の正義の御旗は、焼き払われる) 何をめぐる騒動だったのか。 何のための画策だったのか。 誰のための暗躍だったのか。 枯野を冬の陽射しが染めるばかりだ。 ついに故郷に戻った者よ。 見覚えのある残骸を片付けてくれ。 虚しい傷跡を洗い流してくれ。 一切の記憶を埋葬してくれ。 (結局、此処に生きるお前ひとりだから) |