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イワテバイクライフ 2009年12月後半
さだめに手を引かれていく者よ、 振り返り振り返り、 幾度と無く昨日の名を呼ぶ者よ。 覚えていてくれるか。 冬の街角に突っ立ち、 途方に暮れていた私の姿を。 思い出してくれるか。 雪雲の到来を見渡し、 唇を噛み締めた私の横顔を。 ついに心を決めて キックバーを踏み抜いた男の背中を 振り返ってくれるか。 君の遠い記憶の中に 私は刻まれているか。 |
この街に地下鉄は無い。 暗闇に轟音を立てて目指す場所は無いからね。 (だから、みんな空の下だ) この街に人混みは無い。 肩をぶつけ合い先を争う理由なんて無いからね。 (だから、みんなそれぞれだ) この街に飾り物は無い。 輝かせないと消えていく幸福なんて無いからね。 (だから、みんなありのままだ) |
受け流すことは、 思いのほかに辛いことなんだよ。 誰かの決めたことに従いながら、 すべてが終わるまで待つわけだからね。 それも平気を装ってね。 受け止めることは 思いのほかに楽なことなんだよ。 自分の心の在処を確かめながら、 何かと折り合いをつけるわけだからね。 それも素顔のままでね。 同じ歳月なら、 一喜一憂していようじゃないか。 泣き笑いしていようじゃないか。 立ちはだかるものに心をぶつけ、 挫けたり立ち直ったりしながら、 生きてみようじゃないか。 夢中で受け止めているうちに、 やがて抗うべき風は止み、 霧も消えていくんだよ。 振り返れば、すべては「一瞬の道程」さ。 何事も無かったように、また「ひとり」さ。 |
そりゃあ、仕方がないのさ。 小さな街だもの。 登場人物は、いつも同じ顔ぶれさ。 事に応じて、 少し配役を変えるだけだから、 相も変わらぬ筋書きさ。 いつもの誰かが、 いつもの誰かに何かを言わせて、 いつもの誰かを動かすんだよ。 そうして街は回るんだよ。 あれもこれも、なにもかも、 どこかで見かけたことの繰り返しだよ。 そりゃあ、仕方がないのさ。 そしてね、その仕方なさが懐かしいのさ。 わびしくて、せつなくて、古びていて、 どこか愛おしいのさ。 ※本文と画像は一切関係ありません。 |
絵を描きたいな。 この地の色彩という色彩を 目に焼き付けたら、 筆をとろうと思う。 曲を作りたいな。 この地の風音という風音に 耳をすませた後で、 奏でようかと思う。 劇を書きたいな。 この地の楽園から廃墟まで 巡ってしまったら、 形にしようと思う。 色彩という色彩に染まって、 果てしない風音に耳を傾け、 希望と絶望を胸におさめて、 その日までひた走るんだよ。 |
従うべきものや 縛られるものや 形だけのものを 斧で断ちきれば 軽蔑するものや 馬鹿げたことや 抗うべきことを すっかり消せる。 (ところがね) その清々しさは、 期待するほどに 楽しくはないよ。 やはり人にはね、 軽蔑するものや、 馬鹿げたことや、 抗うべきことが 必要だと思うよ。 そこに明日を思う力は生まれ、 人生の体温は上がるのだから。 (いいんだよ、それで) |
わたしが その地に暮した日々を知る者など、 もう、ひとりもいない。 だから、 わたしを知るわたしを今日も其処に置く。 わたしが その地で夢を追い続けた時代など、 もう、あとかたもない。 だから、 わたしが追ったものを今日も其処に見る。 わたしが、 その地に抱かれ救われた記憶など、 もう、雪におおわれた。 だから、 わたしが愛したものを今日も其処で探す。 (だから、夕闇の先を照らして行く) |
恋い焦がれた場所に佇むには、 魂の絵筆が一本必要なんだよ。 まず、辿り着く腕力が必要だ。 途切れぬ前進の轍を描けるか? 次に、門を叩く思いが必要だ。 そこに求めるものを描けるか? 更に、じっと待つ時が必要だ。 天地の移ろいを感じ描けるか? 遂に、引き返す覚悟も必要だ。 無為におわる一日を描けるか? (さて、それだけでは足りないのだ) 何より思い立つことが必要だ。 そこに向かう物語を描けるか? |
ねえ、その街に落ち着いたら、 小料理屋で一杯やろうよ。 何杯飲(や)れば旅が終わるのか、 語り合おうじゃないか。 そうこうしているうちに 一晩が過ぎるのさ。 (しみじみ酔っているだけでいい) ねえ、その仕事場に慣れたら、 近くの湯治場に行こうよ。 幾度湯につかれば旅が終わるのか、 想像しようじゃないか。 そうこうしているうちに 季節が変わるのさ。 (黙々汗を流しているだけでいい) ねえ、大馬鹿野郎が現れたら、 さらりかわしてやろうよ。 何人やり過ごせば旅が終わるのか、 数えてみようじゃないか。 そうこうしているうちに 終着駅に着くのさ。 (戦うことなど忘れていればいい) ねえ、高速で流れ去る「お笑い種の日々」を 「もっともらしい旅」にしようじゃないか。 好人物のように。 |
(すごいな。すごいことだな) 一日一日が揺ぎ無く過ぎていく。 時の車輪が誰かの思惑を潰し、 歳月は整然と流れ去る。 今日という季節を眺めているだけで、 未来はやって来る。 待ちに待たなくても、 その日になれば歓喜の扉が開くなんて、 すごいな。すごい仕組みだな。 例え別れの日が来ても、 その日から再会への秒読みは始まる。 時が来れば、笑顔の自動ドアが開く。 「また会えたね」「お帰りなさい」と、 僕らは今日の続きを始めるだけさ。 過ぎた数年の速さを思うほどに、 迎える数年の短さが見えて来る。 (暇は無いのだ。気忙しい限りだ) 旅が終わった後の準備は、 旅の初日から始まっているのだ。 まごまごしていたら、 本当の朝が玄関先に立っている。 さあ、さっさと事を進め、終わらせよう。 爆発的な春のために冬の旅を片付けよう。 |
村の結束力を高めるなんて、 雑作も無いことだ。 ひとりのリーダーを送り込めば良い。 無能で傲慢な権力者をひとり 差し向けるだけで良い。 すると、 ひとりひとりの義憤が、 互いを呼び合い、絡み合い、 団結の気運が芽生え、 大馬鹿者ひとりを追放することに 手を尽くし出す。 連携し合図を交わし、 Xデーに向けて歩調を合わせ、 思わぬ仕事を成し遂げるものだ。 最後には固い友情で結ばれていたりする。 |
成金の津波が押し寄せる。 その波に乗って あざとく儲ける影がある。 建設途上の価値基準につけこんで、 贅沢だとか高級だとか希少だとか、 そんな能書きと値札で釣り上げる。 やがて、成金も無駄金を使わなくなる。 金より愛だとか、力より絆だとか、 発展より環境だとか言い出して、 波は引いていく。 けれど、例の商いは、 次の波を待ち侘びて、 眉唾ものの宣伝文句を撒き散らす。 成熟を嫌い、表面に拘る。 そのように、 自らの価値を破壊し、基準を失い、 村も人も時代の海原に沈んでいく。 |
なにも期待していなければ、 無残な結末を告げられても、 氷の様に微笑んでいられる。 初めから信じていなければ、 ものの見事に裏切られても、 手帳に記した予定の通りだ。 微塵も尊敬していなければ、 どれほど斬り捨てられても、 心は無傷のままでいられる。 てんで執着していなければ、 すべてを叩き壊されたって、 もの静かに眺めていられる。 ひとかけらの夢もなければ、 彼方まで白銀に染まっても、 思いを描き出すことはない。 ※本文と画像は一切関係ありません。 |
精一杯働いて、 手に入るものが、すべてだよ。 (好運など夢見ない) 存分に遊んで、 溢れ出る笑顔が、すべてだよ。 (救済など請わない) 思いを寄せて、 実現するものが、すべてだよ。 (奇蹟など待たない) 無用な力を出したり、 無駄に心を砕いたり、 無縁な絆を結んだり、 そんなことをせずに、 私でいられるのなら、 ありのままの私なら、 それでもう充分だよ。 何処で生きようと、悠々歌っていられる。 (ほら、結局、たったひとりなのだから) |
盾を使う者は、盾を上に置き、 矛を使う者は、矛を上に置く。 さて、ふたつを使いこなす者は、 あまりに当然のことだから、 その違いを論じることはない。 時にのぞんで盾。 場にいたれば矛。 水のごとく自然に、左右なく、 風のごとく自在に、上下なく、 舞のごとく美しく、移ろって、 ひたすらに修羅であるだけ。 |
10年後のことだって? その日、どうなっているか、だって? よく見なよ、道の下り勾配を。 そこに今日というボールを転がしてごらんよ。 転落の加速度が見えないか。 止めようのないものが10年を待たずに 闇の底へ消えていく様が見えないか。 よく見なよ、塔の傾き加減を。 そこに今日という日の重さを掛けてごらんよ。 倒壊の加速度が見えないか。 止めようのないものが歳月など待たずに 音を立てて砕け散る様が見えないか。 それがわかっていて、 平然と来年を予告し、5年後を約束し、 10年後を落着させる愚かしさが、 わからないのか? |