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イワテバイクライフ 2010年1月前半
絶大な力は、 深い闇の中から浮上するものだ。 あらゆる不条理を乗り越え、 すさまじい怨念に支えられているものだ。 だから、そんな力は、孤独と暗闘の森に棲み、 何者をも信じることは無く、 最後まで寂しい。 狂乱の道程を振り返るほどに、 もの悲しい。 |
うれしさは笑顔になる。 かなしさは静寂になる。 さて、むなしさは筆になる。 とめどなく言葉を綴らせ、 心を埋めようとする。 希望という嘘で埋めていく。 |
今日の登場人物は、 いずれ立ち去る。 スイッチを切るように消える。 今日の出来事など、 やがて風化する。 理由も結末も忘れられていく。 今日の雪の白さは、 いつまでも残る。 虚しく移ろうものを覆い隠し、 無垢な山河を広げてみせる。 「さあ、ここに足跡を刻め」と 夕闇さえ白く染めていく。 |
心に庭を持つ者は、幸せだよ。 すっかり馴染んだ場所だから、 どんなに暗くたって手の内だ。 深く胸におさめた空気だから、 どんなに冷えても甘い香りだ。 繰り返されて来た季節だから、 どんな時代でも約束の通りだ。 ひたすらに刻んだ記憶だから、 どんなに離れていても一緒だ。 ひたすらに愛しんだ命だから、 どんな旅の枕にも花々は咲く。 (走り続けた大地の歳月こそ、心の庭だ) |
明日の行方は、 ひとりで決められるものじゃない。 (だから面白いんだよ) 偶然あらわれた他人の思惑や ろくでもない誰かの横槍で、 道は意外な展開を見せ始める。 (だから飽きないんだよ) 心に固く決めた筋書きなど いとも容易く踏み付けられ蹴飛ばされ、 明日へ転がっていく。 それを追いかけるから、 人生は燃え出す。 それを拾い上げるのは、 結局一人だから、 人生は愛おしい。 |
賢明な判断とやらで、 昨日という病床に横たわっていないか? 朝が来れば傷など癒えている。 さあ、次の闇を恐れず明日へ動け。 大人の態度とやらで、 心の揺らめきを見殺しにしていないか? 晴れ渡る空が思いを誘い出す。 さあ、次々生まれ来る明日を掴め。 思慮の深さとやらで、 言葉を噛み殺し腕組みをしていないか? 地平線に立つ炎が決心を促す。 さあ、今日を踏越え明日を目指せ。 雪がとける前に、純白の轍を残せ。 春の到来の前に、 一途な夢を刻め。 |
わたしはね、 この道の果てにあるものを 求めているわけではないのさ。 この道から見える季節を 愛しているだけだ。 この道ですれ違う人生に 心引かれるだけだ。 この道に吹く風の香りに 故郷を思うだけだ。 何処へ行こうというわけじゃない。 何処まで行けるかということでもない。 今日も路傍の光があれば、 それでいいんだよ。 |
一切を黙らせるほどの力に頼るなら、 覚悟することだ。 ひとたび世話になろうものなら、 人生を差し出す程の恩返しを求められる。 ひとたび義理を欠こうものなら、 願いという願いは叩き潰されることになる。 そして、その力が地に墜ちた瞬間から、 執拗な残党狩りは始まる。 関わっただけで敗者の旗を負わされ、 雪礫を投げ付けられる。 それを覚悟の上なら、 時の門を叩くがいい。 思いの丈を伝え、 力を借りるがいい。 |
明日の行方を 他人(ひと)に任せているから、 びくびくするんだよ。 道の先行きを 運や縁などに任せているから、 ふらふらするんだよ。 心の落ち着き先を 富だとか誉に任せているから、 がつがつするんだよ。 |
「船に残りたければ、健康であれ。 疲れた素振りは微塵も見せるな。 きついだとか、つらいだとか、 休みたいだとか、 けして口にするな」 そんな脅し文句に 老いた水夫達は櫓を漕ぎ続けた。 明るい舟歌とともに 昼も夜も力を振り絞った。 そのように無理に無理を重ねて、 病に倒れ、海に捨てられた。 |
人の思いは、 面と向かって告げても、 思った通りには届かない。 むしろ、 立ち聞きだとか、 また聞きだとか、 盗み聴きだとか、 噂の類に置き換えた方が、 耳を傾けてもらえることもある。 (どれほど歪曲されていようとね) |
ひとりで頑張っている気になるとね、 他人にも求めるようになるらしい。 自分と同じ頑張りをね。 同じ真面目さ。同じ熱気。同じ声音。 同じ汗。同じ涙。同じ傷。同じ辛酸。 一心不乱だとか、 無我夢中だとか、 そんなところで酔っていると、 結局、ひとり暮れていくだけだよ。 |
人の足跡はね、 自分勝手に残せるものじゃないんだな。 めざすところに届きたいという思いを 天地が受け止めてくれて、 はじめて浮き立つものじゃないのかな。 |
ある朝、偶然目にした文章が、 自分のことを言い表している様に思えたら、 おそらく、その通りなのだ。 そこに綴られたことは、 世界中の誰のことでもない。 間違いなく自分のことだ。 罪深く後ろめたい者の直感は鋭いから、 その言葉は刺さるのだ。 心の闇を貫くのだ。 |
立ち止ることがある。 次の一歩のために 立ち止る。 目を閉じる時もある。 めざす場所を思って 目を瞑る。 黙りこくることもある。 溢れる思いを抑えて 拳を握る。 長い道程には、そんな瞬間(とき)がある。 |