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イワテバイクライフ 2010年1月後半
磨き続けることの価値は、 その最中にあって、 自覚しにくいものだ。 絶えず今を越えようとする限り、 僅かな進歩など必然に過ぎないから。 ところが、 努力を怠り始めた途端、 それは鮮やかに見えてくる。 瞬く間に錆び付いて、 初めて気付く。 何に支えられていたのか。 何が必要なものだったのか。 転落の風景の中に見えてくる。 ※画像と本文は一切関係ありません。 |
歳月の果てに掴み取ったものを 宝石のように磨き込んだりせず、 暮しの片隅に放置しておける。 困難の果てに辿り着いた世界を 聖地のように守り抜こうとせず、 移ろう季節の様に眺めていられる。 いちいち驚嘆して、 巨大な記念碑を打ち立てたりしない。 ことさらに歓喜して、 尽きることなく物語を綴ったりしない。 それが、凡人の才能だ。 ※画像と本文は一切関係ありません。 |
厳寒の地にあって、 人間の絆は、非常に単純な「掟」なのだ。 血縁や友情や相性などというより、 生きていくためには、 互いが関わる他に無いという鉄則だ。 選択の余地もないことに従うのだから、 そこに多くの言葉は生まれず、 激しい主張や対立もなく、 人は、ありのままを飲み込んで、 絆の輪に暮す。 その覚悟とでも言うべきものが、 強靱な寡黙さや、 呆然とするほどの無欲、 あるいは、底無しの優しさとなる。 掟は、村のためにあるのではなく、 一人一人の救済のためにあるのではないか。 選択に苦しみ身を焼くことなく、 静けさにみたされる日々の為に、 それは必要なのだ。 氷河期さえ生き抜く覚悟だ。 |
正しいと思うことを言いたまえ。 まっすぐに言いたまえ。 何も付け加えず、 何も差し引かず、 言い切りたまえ。 それで 舌打ちをする相手なら、 堂々と仕打ちを受けてやりたまえ。 握手を求める相手なら、 感謝の熱をこめて握り返したまえ。 清明な生き様は、 向き合うものの 正体まで照らす。 |
誰かの心証次第で どうにでもなることに 一喜一憂してはならない。 人が変われば 今日の善は明日の悪。 風が変われば 今日の誉は明日の恥。 時が移ろえば 今日の蜜も明日の毒。 聡明も暗愚も、 正義も邪悪も、 同じ道を駆け抜ける。 同じ丘を越えていく。 同じ大空の下にある。 (ならば、ひたすらに) 今日生きる場所を踏み締め、 明日めざす場所を心に定め、 旅の果ての生死など問わず、 ただ、息を弾ませて行こう。 |
秀麗な山脈は 荒野から眺めてこそ美しい。 孤高の横顔は、 俗世にあってこそ凛々しい。 修羅の覚悟は、 絶望を秘めてこそ怖ろしい。 凡庸な人生は、 不条理にあってこそ愛しい。 |
ひとつ自分に嘘をつくと、 辻褄合わせの嘘を重ねて 他人事の様な人生になる。 今日の損得をささやかれ、 明日の振る舞いを誤るな。 未来を気遣う罠にはまり、 積み上げた真実を失うな。 惨憺たる結末にたじろがず、 むしろ、胸を張れ。 |
不本意ながら、 嘘をつかなくてはならない時はね、 いやいや語ってはいけない。 しぶしぶ綴ってはいけない。 見事なまでに嘘とわかる嘘を 高らかにうたい上げるんだよ。 赤面するほど嘘とわかる嘘を 流麗な文体で仕上げるんだよ。 嘘をつかなくてはならない不条理を 鮮やかに描いてみせるんだよ。 皮肉たっぷりに演じるんだよ。 これは嘘だと感動されるほどの嘘を 最後までつき通すんだよ。 |
此処に佇みたければ、 薄汚れた嘘があってはならない。 この風に乗りたければ、 揺らぎ無い心でなくてはならない。 この時間の中に在りたければ、 終わることを知らない 童でなくてはならない。 |
ひとたび決断すると、 世界は、こうも鮮やかなのか。 すべての輪郭は、剃刀のようだ。 すこしでも動けば、 魂は、鋭く切れて血を流す。 どくどくと、とめどなく、 放っておけば、やがて終わる。 だから、なりふり構わず生きる。 ひとたび覚悟すると、 日々は、こうもリアルなのか。 すこしでも迷えば、 事は崩れ出す。 手遅れになる。 水の泡になる。 だから、 心底の言葉をひと息に走らせる。 狙い定めた道を一気に駆け抜ける。 ぬくぬくと曖昧であるより、 運命と斬り結び、己を引き受ける。 (後悔より、むしろ惨憺たる航海を) |
誰が待っているのか、 それはわからないけれど、 木々が騒ぐ。 (出会いがある)と。 何が起きるというのか、 それは予想できないけれど、 雪原が熱い。 (引き返せない)と。 どんな結末なのか、 それは風も知らないけれど、 夕闇が叫ぶ。 (必然なのだ)と。 暮れゆく一面を受け入れて、 さあ、心のままに。 |
歳月を塗り重ねた壁にとって、 5年や10年の色なんて、 色水にもなりはしない。 せめて、 この街に寄り添って生きるなら、 この壁に塗り込められる ひと粒の色彩でありたい。 人生からしたたる 一滴の絵の具でありたい。 |
「このままでは、あなたを支え切れない」 そんな台詞で揺さ振る者に限って、 何も肩に乗せちゃいない。 「このままでは、最悪の事態も有り得る」 そんな台詞で脅迫する者に限って、 最善の方策など知らない。 「このままでは、未来など保証できない」 そんな台詞で恩を売る者に限って、 過去の世界に生きている。 そんな台詞で成り立つ生業が、 実は、あるのだ。 |
その飛距離は、 願い事を実現するまでの距離か。 その弾道は、 希望を叶えるための妥協の跡か。 そのタッチは、 無理を聞いてもらう手練手管か。 あんたは、そんなことまでして 青空の下で誰かにすり寄るのか。 芝生の上で誰かにへつらうのか。 薫風の中で誰かに懇願するのか。 (そんな遊戯に人生を託すのか) |
過ぎた記憶を辿って 其処をめざすのでは無い。 実に偶然にも、 今日の、その時の大気に包まれるだけだ。 流れてきたものとすれ違うだけだ。 射し込むものに照らされるだけだ。 押し寄せるものに飲まれるだけだ。 其処は今日限りの天地。 立ち会うのは、今日限りの私。 言葉もなく、ただ心の絵筆をはしらせ、 見渡す限りを記憶して、 振り返れば、夕闇。 |
こんな凍て付く朝に何がある。 そう思ったら、そこまでだ。 ただ、ぬくぬくと一日は終わる。 凍結していく血流の痛みも知らず、 眠る様に終わる。 こんな吹雪の雪原に何がある。 そう思ったら、そこまでだ。 ただ、らくらくと時は過ぎ去る。 剥き出しの白い牙の叫びも聞かず、 音も無く終わる。 こんな陰気臭い空に何がある。 そう思ったら、そこまでだ。 ただ、ぶらぶらと日は暮れていく。 天空を切り裂き現れる青空も見ず、 白紙のまま逝く。 |