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イワテバイクライフ 2010年2月後半
へつらわず、 おもねらず、 すり寄らず、 下心もなく、 向き合った者から 下される評価こそ、 本物なんだよ。 それこそが、 ありのままの自分なんだよ。 純粋な現実なんだよ。 厳しかろうと酷かろうと、 感謝して受け止めることだ。 その上に積み上げるものこそ、 堂々たる人生だ。 |
抱き上げてくれる人はなく、 手を引かれていく所もなく、 泣き出してよいわけもなく、 僕らは、やがて、 風に抗い、 人に抗い、 時代に抗いながら、 夢を抱きしめ、 志を引き連れ、 唇を噛み締め、 走る者になる。 |
正統を主張したがる群は、 誰かを異端者に仕立てる。 結束を誇示したがる群は、 誰かをことさら疎外する。 仕組みを守りたがる群は、 誰かを独裁の地位に推す。 |
ただ拍手して、 ただ微笑んで、 何も指摘せず、 肩を軽く叩き、 ではお先にと 立ち去る者よ。 ただ首を傾げ、 ただ腕を組み、 何も思案せず、 ウインクして、 ではお先にと 立ち去る者よ。 今日もお前は、 実に自然体で、 壊し腐らせる。 静かな復讐だ。 |
許し、解き放ち、 居場所を与えれば、 人は、花をつくる。 罵り、縛り上げ、 居場所を奪ったら、 人は、毒をつくる。 疑い、探り回り、 居場所を侵したら、 人は、壁をつくる。 信じ、響き合い、 居場所を定めたら、、 人は、輪をつくる。 |
追うほどの夢はなく、 追われる理由もなく、 もう、いいだろうと、 自らを停めれば、 懐かしい夕暮れの道端。 ここに繰り返す 朝と夜。 ここに流れる 光と影。 いつかまた、 ここに立ち止る者の為に 永久に季節を繰り返す道端。 |
ライトを浴びる時代なんて ほんの一瞬だよ。 けれど、その味を覚えて、 ステージの真ん中を熱望するようになる。 チャンスを掴むためなら、 暮らしを後回しにする。 情愛を置き去りにする。 道理など黙殺し始める。 ライトの熱に酔いしれながら老いた者は、 もの静かな朝を恐れる。 平穏な昼下がりを嫌う。 透明な夕闇に火を放つ。 宴のない夜を呪い出す。 じっと風に吹かれていることさえ 我慢できなくなる。 地上のすべてを照らすものが何か、 思い出せなくなる。 |
とてつもなく大きなものが、 揺れ出すのは、ゆっくりだ。 体に感じないほどの揺れだ。 ずっと存在してきたものが、 崩れ出すのは、実に静かだ。 眠りを誘うほどの進み方だ。 中心で回る者ほど その変化に気付かない。 すべては周辺から始まるのだから、 辺境の防人に聞け。 老いた狩人に聞け。 ある朝消えた道標のことを。 どす黒く染まる川のことを。 闇夜に沈んだ山岳のことを。 もの言わぬ村人達のことを。 |
どこかで犬が吠えているだけで、 自分が非難されているように思うのは、 うしろめたいことがあるんだな。 どこかで子供が笑っているだけで、 自分が小馬鹿にされていると思うのは、 拭い切れない劣等感なんだろうな。 どこかでサイレンが鳴り出すだけで、 自分が追跡されているように思うのは、 隠し続けるべきことがあるんだな。 どこかで拍手がわき上がるだけで、 自分が賞賛されているように思うのは、 褒められることがなかったんだな。 どこかで誰かが事実を呟くだけで、 自分の正体が暴かれるように思うのは、 つまるところ図星だったんだろうな。 |
この裾野ではね、ずっと昔から、 誰が「美」を支配するか、確定している。 誰が「財」を動かすのか、確定している。 誰が「政」を牛耳るのか、確定している。 ところがね、 誰が「夢」を描いてみせるのか、 決まっていないんだよ。 実に、そこだけは自由市場なんだよ。 |
一度でも本物を見てしまうと、 偽物を相手にはしなくなる。 どれほど「らしく」出来ていても、 気持を向けることはない。 はじめから偽物に慣されていると、 相当出来の悪い偽物でも 案外受け入れられるものだが、 本物の水準を知ってしまうと、 「その差」が許せなくなる。 そんな人々の辛辣な眼差しの理由を、 偽物に限って飲み込めない。 |
駅前の居酒屋に 客はまばらだった。 黒い手帳を持つ男は、 終電車の時刻も忘れて語り続けた。 マズイ話ってものはね、 闇に封印されて、 息絶えていくんです。 何か変だ、という違和感だけは漂うのですが、 その原因に触れる者は出て来ません。 だから、 言葉を失うほどの出来事に、 誰も振り返らない。 耳を疑うほどの出来事に 誰も首をかしげない。 そういうものだと思って眺めている。 でもね、 ひとたび、例のマズイ話を知ってしまうと、 これがまた、すべて納得できるんです。 不可解な日々のひとつひとつに 説明がつくんです。 「あなたの違和感は、 つまり、そういうことなんですよ」 男は手帳を懐に戻すと、そう呻いた。 したたかに酔った男を宿に送る途中、 虚ろな赤子の泣き声を聞いた気がした。 |